モンゴルと言えば大草原が想像されると思います。
しかし、モンゴルの国土は東西南北で自然形態が変わっており、北と西の地域は高い山と木もあれば、南や東は草原や砂漠といった風景が広がっています。
そんな多様な景観のあるモンゴルの中で、広大な草原地域を紹介したいと思います。
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スフバートル県(Sukhbaatar)
スフバートル県(Sukhbaatar)は、首都ウランバートル市から東に556キロメートル離れたモンゴルの東南国境となる地域です。国の東端に所在しているため、地元の人々は「日の出」の故郷と言い、その意味を表す歌詞も作られています。言われている通り、日の出が一番先に、一番美しく見える草原なのです。
スフバートル県は地理的に、西はヘンティー県、北はドルノド県、西南はドルノゴビ県に隣接しており、東南は中国(内モンゴル自治区)と国境地域として隣接しています。スフバートル県は国家独立革命家の出身地として知られているため、革命指導者のダムディン・スフバートル(Damdin Sukhbaatar)の名前から名付けられています。ダムディン・スフバートルは国家の英雄として有名な人であり、首都ウランバートルのチンギス広場とスフバートル県の中心部にスフバートル氏の銅像が置かれています。
ダムディン・スフバートル
スフバートル県は山が少なく平らな草原であり、草原ならではの自然や魅力があります。
草原と言えば、何が魅力的でしょうか。
言うまでもなく、地平線を鮮やかに染める朝日と夕日です。
草原では基本的に車での移動になりますが、草原の奥に行けば行くほど野生動物を見かけることができるでしょう。狼や狐やガゼルなどが自由に走っている風景がスフバートル県の草原にはあります。
また、冬季の雪以外は雨量が少なく乾燥している気候ですが、そのような環境に力強く生えてくる草が動物や家畜が生き延びる源になります。草原の草を食べた家畜の肉が美味しいということで人気もあり、一方、薬草としても使われる栄養豊富な草類もあります。
そして、この地域独特の見所を紹介します。
スフバートル県の中の一番南側、いわゆる国境の村についてです。
ダリガンガ村(Dariganga soum)
有名な観光地として知られているのがスフバートル県の南部にあるダリガンガ村です。
草原・砂漠・湖・洞窟などがあるところであり、それぞれの不思議な力とその由来が昔から語られてきました。国境地域として歴史の深い村です。
ダリガンガ村には中国と接する国境線があり、国を守っている「聖山」が存在しています。“国境を守る“に関する歴史や物語が口承されてきており、「聖山」に対して長年に渡る信仰があります。
アルタンオボー
その聖山はアルタンオボーAltan Ovoo(金山)と称され、高さ百m程のそれほど高くない山ですが、平らな草原では高く感じられます。ダリガンガ村に点在する数多くの死火山の一つであり、薄いブルー色に遠くから見えます。これは死火山石のためで、近着くに連れてブルーの色が濃くなってきます。
大昔から参拝してきた山ですが、2004年から国家崇拝山として公表され、四年毎に国家公式の崇拝行事が行われるため、観光客が全国から集まってきます。儀式として、昔から男性のみが山の上まで登る決まりがあり、女性は山のふもとを時計回りに歩いて参拝します。
その他にも、シリーンボグド山(Shiliin Bogd)や、タリーンアグイ洞窟などの観光地として有名なところもあります。これらは“男なら一生に一度は訪れる聖地“として知られています。このように、男に人気の場所となる訳は何でしょうか?
ダリガンガ村の物語
大昔から、ダリガンガ村は良い男と速い馬の故郷として知られており、それは歴史的な状況や地理的な特徴による出来事があるからなのです。特に、シリーンボグド山は国を守る男達の誓いの場、正義の力が得られる聖山として語られてきました。それはモンゴルが清国に二百年も支配されていた時代からの伝説で、その支配に抵抗する男達がこの山に登って、お互いの帯を交換し兄弟の契りを交わしてから戦いに出ていたと言われているためです。
シリーンボグド山
現在では、シリーンボグド山に登る者は「開運と念願の力をいただく」として、モンゴル男達の憧れの場所として全国からモンゴル人が訪れる場所になっています。標高1778メートルの高さですが、山頂まで歩いて登ることができます。山頂からの絶景は周囲が一望できるため、日の出を楽しむ人が多いです。実際に、シリーンボグド山は西からの大陸の風と東からの太平洋の風が直面する場所であり、自然エネルギーが集まったパワースポットという説もあります。
タリーンアグイ洞窟
もう一つの名所は、清国支配者に追いかけられた男達が身を隠していたというタリーンアグイ(Taliin Agui)洞窟が、山からそれほど離れていないところにあります。洞窟の長さは245メートル、深さはおよそ4メートルのモンゴル最大の洞窟になります。洞窟の中に入ると構造が異なるいくつかの部屋があって、夏はひんやり涼しく感じられます。
オリギヒーンブラグ
村からしばらく離れたところに、オリギヒーンブラグという水が湧き出ているところがあります。とても神聖なところです。
湧き水が出ているところで歌を歌うと水が勢い良くでてくるという話もあります。
また、湧き水から生まれた湖もあり、雄大な光景が広がっています。
スフバートル県の馬が速い理由
続いてですが、ダリガンガ村に関する男たちの伝説と共に、馬が速いという由来も歴史的な根拠に基づくものです。かつての清国皇帝は、国家行事のために全国から足の速い馬を集めてこの地域で放牧していました。
そのため血統の良い馬が多く、現在に至っても国家競馬(ナーダム)で優秀な成績を残す馬の産地として誇られています。
ダリガンガ村の由来
最後になりましたが、ダリガンガ村(Dariganga)の名前は、ダリ山(Dari:金山の元名)とガンガ湖(Ganga)の名称を合わせてできたものです。ガンガ湖は草原地帯と砂漠地帯の境界に存在して、秋は北から南に向かう白鳥が千羽も集まってくる渡り鳥の休憩場所になります。ガンガ湖にも伝説があり、昔インドに旅した仏教人が、インド最大のガンガ河の水を持ち帰ってきて、砂漠の中に埋めたら湖ができたため、ガンガ湖(Ganga)と称したという話しがあります。
ここまでダリガンガ村の一部を述べてきましたが、現地での観光設備として木製建物でできた観光用キャンパスはありますが、冒険の旅が好きな方はゲルやテントに泊まることもあり、それぞれの楽しみ方ができます。
草原の見所についてここまでにしますが、足を運ぶ一歩一歩が聖地となる名所を訪れて、歴史的な出来事を想像しながら、草原の風と共に乗馬を楽しみ、遊牧民の歌に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。